宿題番号001
カチッ……サラサラ…ズーッズーッ
教室にはシャープペンシルの芯を押し出す音、
それで帳面に数式を書き込む音、消しゴムで書き間違えを訂正する音が交じり合っている。
正直な所、僕には黒板に書かれた数式が全く分からない。
ウン。本当に分からない。
これは間違いなく次のテストは赤点だろう。
けれど、テストの事はテストの前日に考えれば良い。
ただ、今問題なのはこの記号の羅列にしか過ぎなくなってしまった黒板を見詰めて
先生の話を聞く、などというつまらない時間をどうして乗り切るかだ。
ノートは後で、千勢くんに写させてもらおう。
無いなら無いでも別にいい。補習で頑張ればいいのだ。
僕は左手をこっそりと机に入れる。
今、教壇に立っている教師は━━━━━━数学担当の佐渡先生だ。
黒板に白墨で数式を書き込んでいる。
皆はそれを必死で帳面に書き写していた。
僕はそっと机の中に入れていた手を抜き出す。
僕が取り出したのは薄めの文庫本だ。
それを膝と机の間に挟みこんで開く。
それを盗み見ながら、授業を聞いている風に装うのは
難しいが、そんなスリルも又楽しい。
僕はそれを読みながら、時々教室の様子に気を配る。
━━━━━━配っていたつもりだった。
周りのクラスメェトは帳面に書き取った数式を解いている。
僕もペンだけはキチンと持っていた。
……考えているような振りをしていたのだけれど、
先生の視線が僕に向けられている。
流石、サドせんせーというだけある。
ガン見されただけで背筋からこそばゆい罪悪感が駆け上ってくる。
『もうしません、二度としません』
帳面に書き付けて、そっと左手で文庫本を机の中に戻す。
勿論、今回限りで止める訳は無い。
僕はこの暇つぶしが結構気に入っていた。
帳面に書き付けた文句は、差し詰め、『今の気持ち』だ。
僕はドーブツのように、あまり継続して思考をを留めておく事が出来ない。
むしろ断行したいと思うのはこのようなろくでもない暇つぶしだ。
テストも勉強にも、僕はあまり興味がない。
僕が適当に右手だけで書き取った雑な数式に向かい始めたのを見届け、
佐渡先生は愛用のでかコンパスを片手に教室内を歩き出した。
今回は、負けだ。
もっと上手くひまつぶし読書を習得しなければ。
勝敗が決した事で、僕は記号の羅列と向き合わねばならない口実を得た。
僕は、『不本意だ』と、思いながら、『嫌々』帳簿の数式を追う。
理由があれば、僕はこの嫌いな教科に多少は集中できる。
もうしません、二度としません。
下手な、油売りはネ!1!
……ハハ、勿論冗談でスよ?
END
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