give a person a sidelong look



 人の顔を見るのが苦手です。
 どこを見ていいか判らなくなるし、どんな表情をしていいかわからない。
 小学校では人の目を見て話をしなさいと指導されたけれど、それは結構難しいことだと思う。
 目を見て話されると、感情を読まれてしまいそうで、卑屈に作り笑顔を振りまいてるのを見抜かれそうだから。


▽


 目の前をぶーんと、蜜蜂が通り過ぎた。
 少し内心慌てたけれど、そのままじっとしている。
 腕を振ったり叫んだりすると、余計蜂の気を引いてしまうから。
 放課後のグラウンドの喧騒が蜂の羽音の様に耳に入ってくる庭園の木陰で僕は身を潜めていた。


 僕は誰かと一緒に下校したり話をしたりするのがあまり得意ではなくて。
 自分によく似た容姿なのに、社交的な従弟と比べられるのが嫌で、
彼とは違うこの学園に入学したのに、卑屈なのは変わらない。


「おーい。何してるんだ?」
 不意に肩を叩かれて、ハッと思考の海の中から現実へと引き戻される。
「あ、どうしたの?今から下校?」
 僕の目の前に、同じクラスで一番仲のいい彼が立っていた。
「そそ。一緒に下校しよう」
 彼は不思議だ。いつもどうやるのか、隠れるように身を潜めている僕を見つけてしまう。



「うん。僕でよかったら……」
 彼が肯いて手を差し伸べてくれる。
 しっかりと僕の目を彼の視線が捉えている。
 けれど、僕は困ってしまわない。どんな表情をしていいかなんて悩まない。
 そんな事を悩む余地もなく、僕は彼の手をとって立ち上がり、彼の顔を見返す。


 掛け替えなく大切な彼にだけ向ける笑顔で。





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